胚移植について
卵子と精子の受精を確認したのち、受精卵をさらに培養液の中で育て分割を進行させて、採卵から2日目で4分割以上(受精卵の細胞が4個以上)、または 3日目で6分割以上(受精卵の細胞が6個以上)になったら子宮内に移植するのが基本的な流れです。この移植方法を初期胚(分割期胚)移植といいます。またその後もさらに分割を進んだ胚盤胞(はいばんほう;採卵してから5日目)という状態で、移植することも治療の選択肢です。初期胚と胚盤胞はそれぞれの基準に従ってグレード評価していきます(図:左が初期胚、右が胚盤胞)。
初期胚と胚盤胞
- 初期胚移植:受精後2-3日目の初期胚を移植する方法です。
- 胚盤胞移植:受精卵を5-6日間培養し、胚盤胞と呼ばれる着床準備状態の胚を移植する方法です。 胚盤胞移植は、移植あたりの妊娠率が初期胚移植より高いと言われています。しかし、胚盤胞まで育たない場合もありますので、移植方法は慎重に選択されるべきです。
メリットとデメリット
2日目・3日目の初期段階で良好な胚であっても、移植後に胚盤胞まで発育する胚であるかどうかを見分ける事はできません。その点、胚盤胞移植では子宮に着床する直前の胚盤胞まで発育した成功率の比較的高い胚を移植することができます(最後まで見届けてからの移植)。
一方で、初期胚が胚盤胞の段階まで到達できるかは保証できません。胚がほとんど、あるいは全く発生することなく体外受精-移植周期を終了せざるを得なくなる可能性があります。体外で発生が止まってしまった胚をもっと早くに子宮に移植していたら生存していたかもしれない可能性があります(体内の方がより良い環境であった可能性)。不妊の原因と体外受精の経歴を考慮しながら、個々の患者さまと医師が相談の上に胚盤胞移植が適切な選択肢かどうかを判断する必要があります。
胚移植についてのきまり
日本産科婦人科学会の会告(平成20年4月)により、『生殖補助医療の胚移植において、移植する胚(受精卵)は原則として単一とする』と定められています。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2個の胚移植を許容するとされています。
正常な発育が明らかに不可能と考えられる受精卵と未受精卵の取り扱いについて
- 多精子受精卵など、正常な発育が明らかに不可能と考えられる受精卵については子宮に移植しません。その後は法や日本産科婦人科学会の定めるところに従い、受精卵を丁重に取り扱います。
- 移植が不可能な場合(受精卵の発育遅延や未受精)は、担当医師よりご説明させて頂きます。
- 移植不可能な胚・卵子の取り扱いにつきましては、患者さまご夫婦の承諾を得て破棄処分とさせて頂くことがあります。
卵子活性化
顕微授精(ICSI)を行っても受精が成立しないことがあります。その原因として、卵子または精子が受精成立のために、活性化を起こせない(受精によって引き起こされる卵子内のカルシウム上昇不足)、ということがあります。
顕微授精(ICSI)実施後の低受精率など、受精卵が得られなかった場合、医師の判断により、卵子活性化について提案させて頂くことがございます。
当院では 卵活性化障害が疑われる症例には「カルシウムイオノファ」という薬剤を含んだ培養液を使用し、ICSI後の卵子活性化を誘導します。受精障害の原因特定は困難であり、この方法は、受精障害の原因が卵活性化障害にある場合にのみ効果があります。未だ確立した方法ではなく、効果は限定的になります。
Embryo Glue®(着床対策)
Embryo Glue® (エンブリオグルー)は 胚移植時に使用するヒアルロン酸を豊富に含んだ培養液の名称です。ヒアルロン酸は子宮内膜にも自然に存在し、胚(受精卵)の着床を助けるのでは?と考えられています。ヒアルロン酸は 胚の着床を促し、さらに、粘性の高さから胚の保護効果も期待できるため「受精卵接着剤」として、注目されています。Embryo Glue® は FDA(米国食品医薬品局)に認可されており、本薬剤は受精卵に対して安全であることがわかっています。
当院では 胚移植(新鮮胚移植、凍結‐融解胚移植)全症例に対して このEmbryo Glue®を使用致します。
透明帯開口法(Assisted Hatching;アシステッドハッチング)
卵子・受精卵は受精、発育の段階では 透明帯という膜に守られていますが、胚盤胞に到達し、着床の直前には透明帯という膜から脱出(ハッチング)し、受精卵は子宮内膜へ入り込んで行きます(着床)。
透明帯開口法(アシステッドハッチング)とは胚(受精卵)が着床しやすくするために、透明帯からの脱出(ハッチング)をアシストする(助ける)方法で、 具体的には透明帯の一部を薄くしたり切開したりする技術のことです。透明帯を薄くしたり、切開する方法として、薬品を用いたり、透明帯に直接傷をつける方法がありますが、当院では、より安全な方法としてレーザーを用いた透明帯開口法(アシステッドハッチング)を実施おります。
良好胚を移植しても妊娠が成立しない、など 着床障害が疑われる場合に、有効な治療法のひとつ、として選択されます。良好胚を移植しても妊娠が成立しない、透明帯が厚い、40歳以上の場合、凍結‐融解胚移植、など、医師と相談し、この治療法を選択して頂くことになります。
体外受精のご案内