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排卵誘発

排卵誘発について

体外受精における卵巣刺激とは、排卵誘発剤を使用して卵胞(卵巣にある、卵子が入っている袋)を複数発育させ、複数の卵子を得る目的で行われます。1つの卵胞を発育させることを主たる目的とした一般不妊治療の排卵誘発剤の使い方とは、その目的の面でも大きく異なります。当院では卵巣刺激(排卵誘発法)を【調節卵巣刺激法】と【低刺激法】の2つに分類しています。その他、エストロゲン補充法、完全自然周期法があります。 年齢とAMHを参考にしてその人に適切な誘発方法を選んでいきます。

調節卵巣刺激法 (COS : controlled ovarian stimulation)

刺激周期とは一般的に、月経時から採卵までの間、ほぼ毎日排卵誘発剤の注射を行う方法です。時には2種類行います。鼻のスプレーを併用することもあります。

  1. アンタゴニスト法
  2. GnRHアゴニストーショート法
  3. GnRHアゴニストーロング法
メリット
  1. 複数の卵子を得ることによって、複数の受精卵が得られる可能性が高まる。
  2. 複数の凍結胚を得られる可能性が上がる。
  3. 結果的に複数回移植が可能である。
デメリット
  1. 毎日注射を打つ必要があることによる身体的・精神的・経済的負担
  2. 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の可能性。重症OHSSにならないよう十分注意して卵巣刺激を行いますので頻度は高くありませんが、入院加療が必要になったり、血栓症を併発したりすることも考えられます。

(1) アンタゴニスト法

月経2、3日目よりhMG注射(卵を育てる注射です)を開始します。一番大きい卵胞の直径が14mmを超えたら、アンタゴニスト(ガニレストまたはセトロタイド)を併用していきます(腹部皮下注射)。卵胞が充分発育して採卵が決定するまで継続していきます。

メリット
  • 下垂体ホルモンの抑制をしないので、アゴニスト法に比べ、卵胞が発育しやすい。
  • 下垂体抑制が一時的。
  • OHSSのリスクがある場合、卵子成熟をアゴニスト点鼻薬で行えるので安全(hCGは必要なし)。
デメリット
  • アンタゴニストの作用により、卵胞の発育にブレーキが掛かってしまう可能性。
  • アンタゴニストが高額であるため、卵胞発育が遅い場合は、費用が高くなる。
  • アゴニスト法に比べ、排卵してしまう可能性がわずかにある。
どのような方に? 卵巣機能が極端に低下している方を除く比較的多くの方。

(2) ショート法

卵巣機能が軽度低下していたり、他の方法で妊娠しなかった場合などに用います。最も強い刺激方法とも言えます。年齢やAMHを参考にして、この強い刺激に反応する可能性のある方に対して行います。

メリット
  • アゴニスト開始直後の下垂体ホルモンのフレアアップ(使用直後はアクセルがかかります)をそのまま卵胞発育に利用できる。
デメリット
  • 卵巣予備能が低い場合は、抑制が効きすぎて卵胞発育が悪くなる。
  • 卵巣予備能が低い場合は、不必要な注射が増えてしまう。
  • 卵子成熟にアゴニスト点鼻薬を使用できず、HCGを使用するため、卵巣過剰刺激症候群になる可能性がある。
どのような方に? 卵巣機能が軽度低下している方。強く刺激を必要とする方。

(3) ロング法

  • 卵巣機能が比較的保たれている方に行います。
  • 治療周期の前の周期に、必ず準備の周期(前周期)が必要です。
メリット
  • 準備周期をつくり、下垂体を完全に抑制してからの排卵誘発のため卵胞発育が均一になる。
  • 下垂体ホルモンを完全に抑制してから排卵誘発剤を開始するため、排卵してしまう可能性がほとんどない。このため、採卵日のコントロールが容易。
デメリット
  • 下垂体ホルモンが完全に抑制されるため、注射量が多くなる。
  • 卵巣予備能が低い場合、卵胞が育たない。
  • 前周期の準備が必要(計2周期必要)。
  • 卵子成熟法にアゴニストを使用できず、HCGを使用するため、卵巣過剰刺激症候群になる可能性がある。
どのような方に?
  • 卵巣機能が比較的保たれている方
  • 採卵日のコントロールが必要な方

低刺激法

雙葉会式:modified mild ovarian stimulation

低刺激法は卵巣機能が極端に低下している方を除く、ほぼ全ての方に行うことが出来ます。

内服薬の種類や注射の方法には多くのやり方がありますが、当院では雙葉会式(modified mild ovarian stimulation)と称した方法を中心に行います。当院の場合、内服の排卵誘発剤を併用することで、月経時からしばらくの間、排卵誘発剤の注射を行わないか、行っても1日おきであるなど、注射の回数を減らした卵巣刺激方法です。

メリット
  • 注射の回数が少ないため、身体的・精神的・経済的が負担少ないこと。
  • 卵巣過剰刺激症候群のリスクが比較的低い
  • 完全自然周期より採取できる卵子が多いため、受精卵が得られる可能性が高い。
デメリット
  • 1回の採卵で得られる卵子の数が調整卵巣刺激周期と比べて少ない可能性がある。
  • 調整卵巣刺激周期と比べて採卵数が少ないため、凍結胚が得られなかったり、得られても数が少ない可能性がやや高い。
  • 調整卵巣刺激周期と比べて再度の採卵が必要となる可能性がやや高い。
どのような方に? 卵巣機能が極端に低下している方を除く、ほぼ全ての方

エストロゲン補充法

ERCC:estrogen replacement and clomiphene hydrochloride

卵巣機能の低下が明らかになってきている方に用います。

体内のホルモン環境を改善し、チャンスを待ちます。内服薬でゆっくりとした刺激を併用します。

メリット
  • 体内のホルモン環境を改善していく治療のため、完全自然周期に比べて卵子が得られる可能性が高まる。
  • 卵胞が見えてくれば刺激が開始可能。
デメリット
  • 1回の採卵が得られる卵子の数は通常1-2個。
  • 卵子が得られない場合も多くある。
  • 1周期にかなりの時間を要すことがある。
どのような方に? 卵巣機能が低下している方

完全自然周期法

原則として経口、注射にかかわらず、排卵誘発剤を使用しない方法です。ただし、採卵前の排卵を防ぐためにアンタゴニストを用いたり、育ってきた卵胞を後押しするためhMGを使用することもあります。 「ホルモンバランスがよくない、卵巣予備能力が低いなどで、卵巣刺激をしても複数の卵子が採取できる見込みがない場合」「刺激周期や低刺激で妊娠しなかった場合」などに主に行いますが、基本的には自然排卵があれば、どなたにでも行える方法です。

メリット
  • 身体的・経済的な負担を最も軽減できる。
  • 毎月採卵できる。
  • 受精卵ができ、胚移植ができれば、胚移植あたりの妊娠率は他の方法と遜色なし。
デメリット
  • 卵胞が原則1個のため、「採卵前の自然排卵による採卵キャンセル」「採卵しても卵子が採取できない」というリスクが他の方法よりも高い。
  • 卵子が採取できても、その1個が受精しなかったり、育たなければ移植できない。
どのような方に?
  • 卵巣予備能低下の場合
  • FSHが高値の場合
  • もしくは希望者

自然周期法VS卵巣刺激法

薬を全く使わない・またはほとんど使わない自然周期法と、毎日のように注射をする卵巣刺激法のどちらがいい受精卵がえられるか?
この議題については、今まで多く議論されてきております。
しかしその結論はまだ出ておりません。

実際どちらにもそれぞれ、メリット・デメリットがあります。
その患者さんの背景、ホルモン値、AMH値、エコー所見により使い分ける必要があると思います。
全ての患者さんが同じプロトコールになるはずはなく、この両方法をうまく選び使い分けることが大切だと思います。

患者さんは一刻も早く妊娠したいのです。
その一番の近道を選ぶのがわたし達の使命です。

今は、卵巣予備能がほぼ正確に把握できる時代です。
卵胞が育つ可能性が低い人に何本も注射することはナンセンスであり、また、反対に刺激をすればそれなりに反応することが期待できる人にはある程度刺激をしないのはもったいないことであり、時間と費用が逆にかさむ可能性が出てきます。

結論は、患者さんの数だけ治療方法があるということです。