1.男性不妊症とは
男性不妊とは不妊の原因が男性側にあるケースのことを指します。WHOの報告によると不妊原因の男女別の割合は、女性側に原因がある場合は約41%、男女共に原因がある場合は24%、男性側に原因がある場合は24%、原因不明が11%と報告されています。
つまり、不妊原因のおよそ半数は男性側に何かしらの原因があることになります。
現代では晩婚化や生活習慣の変化により、女性不妊のみならず男性不妊も増加しています。これまでは男性側に原因がある場合は泌尿器科などへの受診を勧めてまいりましたが、患者様の時間的、経済的な負担を考慮し、また当院の女性不妊診療と足並みを揃える目的で、2017年6月より男性不妊外来を開設することとなりました。
精子の運動率改善のために・・・
男性の妊活をよりサポートするために当院での取り扱いを開始いたしました。
男性不妊の原因:造精機能障害
男性不妊原因の約90%が造精機能障害と言われている。
精子を作る機能に問題がある状態。状態により乏精子症、無精子症になる。
【原因】ストレス、ホルモン分泌異常、染色体や遺伝子の異常、精索静脈瘤、精巣悪性腫瘍など
おたふくかぜなどの高熱による精巣炎、幼児期に高い位置にあった精巣が陰嚢内に下りてこなかった停留精巣なども影響することがある
主な疾患
精索静脈瘤
男性不妊患者の約20%に認められる
【原因】…静脈弁の異常により、精巣周囲の静脈拡張や、腹部から精巣に静脈血の逆流が生じることによる
【自覚症状】…ほとんど自覚症状はないが患側の鈍痛や陰嚢の腫瘍として感じることがある
【精子への影響】…静脈血のうっ滞により精巣の温度が上昇するだけでなく、低酸素状態や分泌ホルモンの希釈等により、精子形成に悪影響を及ぼすと考えられる
【治療方法】…軽度~中等度であればビタミン剤やコエンザイムQ10などの抗酸化剤や漢方薬の内服
静脈瘤が高度であれば手術(顕微鏡下低位結紮術)
造精機能障害には精液中の精子数や運動性をもとに図のように分類されます
正常精液 normozoospermia |
WHOの基準を満たすもの |
---|---|
乏精子症 oligozoospermia |
精子濃度15×106/ml未満 |
精子無力症 asthenozoospermia |
運動率40%未満 |
奇形精子症 taretozoospermia |
正常形態精子率4%未満 |
乏精子-精子無力-奇形精子症 oligoathenoteratozoospermia |
精子濃度,運動率,奇形率のすべてが異常 |
無精子症 azoospermia |
精子が存在しない(遠心分離後) |
無精液症 aspermia |
精液が射出されない |
WHO(2010)の正常基準値
精液量 | 1.5ml以上 |
---|---|
総精子数 | 39×106以上 |
精子濃度 | 15×106/ml以上 |
総運動率 | 40%以上 |
前進運動率 | 32%以上 |
正常形態率 | 4%以上 |
男性不妊の原因:精路通過障害
主な疾患
避妊術後(パイプカット):精管を切断することにより射出精液中に精子が届かない事による。治療は精管精管吻合術を行う。再度精子が出てくる確率は90%以上である
精巣上体炎:淋菌やクラミジアが原因のことが多い。精巣上体に炎症が生じ精巣から精管へ精子を輸出する精巣上体管の詰まりを生じる。多くは片側であるので無精子症になることは少ない
先天性両側精管欠損症:生まれつき精管がない珍しい病態。精巣内から精子を採取することにより精子を得ることが出来る
停留精巣・鼠径ヘルニア術後:小児期に手術していることが多い。小児期の精管は非常に細く術後閉塞していることもある
閉塞性無精子症について
精子の通り道である精管や前立腺に異常があり、精子が出られない状態
【原因】
先天性両側精管欠損症、パイプカット術後、乳児期・幼児期での両側鼠径ヘルニア術後、精巣上体炎(クラミジアや淋菌などの性感染症の罹患により起こる)
【検査】採血(ホルモン検査、染色体検査、AZF遺伝子検査)、触診、超音波検査
【治療方法】
非閉塞性無精子症と同様に手術にて精巣内より精子を採取します。精子採取率は95%以上と報告されています。
【転期】
精子が採取できれば体外受精をおこなう
非閉塞性無精子症について
精巣自体に何らかの原因があり、精子を作ることがほとんど出来ず精液中に精子を認めない状態
通常2回の精液検査により診断となる
【原因】約80%は原因不明。次に染色体異常(クラインフェルター症候群)が多い。遺伝子異常、悪性腫瘍による放射線治療後や化学療法後でも無精子症になることがある。精子成熟障害やホルモン分泌異常は稀である
【検査】採血(ホルモン検査、染色体検査、AZF遺伝子検査)、触診、超音波検査【治療方法】
多くは精巣を開き精巣内から精子を探す顕微鏡下精巣精子採取術(Micro-TESE)を試みる
(精子採取率は30~50%程度)
【転期】
精子採取できない場合はAID(ドナー提供精子による人工授精)や養子縁組を紹介する場合がある
精子成熟障害の場合はホルモン治療を行う頃により精液内に精子が出現することがある
Micro-TESE
顕微鏡下精索精子採取術と呼ばれる手術で、主に「非閉塞性無精子症」の方を対象に行う
精巣を切開し、手術用顕微鏡下で精巣組織を観察し、よりよい状態の精細管を選別して採取する方法で採取した精細管を細かく刻み、精子を見つける
男性不妊の原因:性能障害
逆行性射精
精液が射精時に膀胱内に逆流を起こす状態
【原因】
糖尿病による末梢神経障害、脊髄損傷、骨盤内悪性腫瘍術後など射精する機能に異常を生じることによっておこる
【自覚症状】
射精感があるにもかかわらず精液量が極端に少ない
【治療方法】アモキサン(抗うつ剤)など逆流を防止する薬剤の処方
内服加療により射精できない場合は、手術により精巣から精子を採取することもある
膣内射精障害・勃起不全(ED)
マスターベーションは可能だが、性交にて射精ができない状態
性交時に十分な勃起が得られないまたは十分な勃起が維持できない状態
【原因】
心因性あるいは加齢性、誤ったマスターベーション方法など
年齢、ストレス、不規則な食事、運動不足、喫煙生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)
【自覚症状】
腟内で射精できない
【治療方法】
マスターベーションの改善など、徐々に膣内で射精できるように試みる
多くは治療抵抗性のため早期の人工授精を勧める
バイアグラなどの勃起補助剤の使用
2.男性不妊外来のスケジュールについて
泌尿器科専門医による外来を月2回(土曜日14時〜)行なっております
2020年12月以降より、第2、第4土曜日の診療予定となります
治療の流れ
1)受診予約をしていただきます
2)問診票などの提出
3)問診
4)診察・検査
5)治療方針の決定
検査内容
1)問診・視診・触診
2)精液検査
3)血液検査(ホルモン採血や染色体検査、遺伝子検査)
4)陰嚢部超音波検査
3.料金
10月9日(土)より、男性不妊について以下のとおり料金を改定いたします。
●男性不妊初診料 ¥3,300(税込)
●男性不妊再診料 ¥1,100(税込)
●精 液 検 査 ¥2,750(税込)
また、より多くの方に男性不妊の検査を受けて頂きやすいように
「 男性不妊検査3点セット(診察料/結果送料込) ¥22,000(税込) 」を 新設いたしました。
精液検査に加え、陰嚢部超音波検査、採血検査(ホルモン値6項目/クラミジア抗体/感染症4項目) をまとめて行うことによってより詳しい状態を知ることができます。
女性だけではなく、男性の方にも不妊ドックまたはブライダルチェックとして、より多くの方に検査を受けていただきたいと思います。
※すでに精液検査が済んでいる方には、下記セットをお勧めいたします。
「 男性不妊検査2点セット(診察料/結果送料込) ¥19,250(税込)
【 陰嚢部超音波検査、採血検査(ホルモン値6項目/クラミジア抗体/感染症4項目) 】
4.男性不妊外来担当医師の紹介
獨協医科大学埼玉医療センター 産婦人科 鈴木 啓介 先生
獨協医科大学医学部医学科を卒業後、同大学泌尿器科教室に入局
専門は男性不妊症で、不妊治療に精通する中女性不妊症も勉強しなければと志し、同病院産婦人科に入局。不妊症全般に携わる。